趾皮膚炎(DD)に対する蹄浴について

 「趾皮膚炎(以下DD)」の対策の一つである「蹄浴」に使用される薬液として、「硫酸銅」があります。

効果的かつコストが低い点から、世界中で昔から使用されています。しかし、「硫酸銅」廃液の環境汚染の問題から利用している農場は減少してきています。特に牧草地を持たない都市型の酪農場ではほとんど使用されていません。

現在ではいろいろなメーカーにより「硫酸銅」に代わる蹄浴のための薬剤を紹介していますが、使用方法によっては大きなコストとなってしまうため、慎重に検討する必要があります。

今回はDDに対する効果的な蹄浴とはどのようなものか考えてみたいと思います。

目次

趾皮膚炎(DD)の原因

DDトレポネーマ属菌を中心とした複数種類の細菌により引き起こされるとしています。菌がいるだけでは感染は成立せず、外部環境や牛自身の内部環境など様々な要因が引き金となり発生します。ホルスタイン種だけでなく、肉用種においても近年では問題となっています。

DDの病状ごとのステージ分類

 DDを考えていく前提として、病状におけるステージ分類が必要となります。Dopferの分類によると

  • M0:きれいな非感染性の皮膚
  • M1:小型、初期、赤色、疼痛を伴う直径2cm以下の病変
  • M2:典型的な赤肌病変、直径2cm以上
  • M3:痂皮形成しているもの
  • M4:角化が亢進し、疼痛を認めない病変
  • M4.1:M4の病変上もしくは周囲に新たな病変を有する   (「牛の跛行と蹄管理」を参照)

フローチャートにするとこのような図でしょうか。M2は急性期の病状で、明らかな個体診療を必要とするステージとなります。M3M4治癒の途中経過と捉えることができるが、細菌が潜伏している可能性があるため、再発や伝播のリスクがある。

このように牛群の発生・感染状況を定量化することで、対策の必要性の有無を確認できます(ステージM2、M4.1がどれくらい牛群に占めているか)。また、M4の割合を把握することで、DDへの対策(蹄浴など)の効果を判定することができます。

農場内の環境要因

 農場内の衛生状態はこの病気の最も重要な要因とされています。長い時間、糞尿に暴露された蹄は、最もリスクが高くなります。濡れた皮膚や汚れた蹄が、病原体の最適な増殖環境となってしまうからです。先日の趾皮膚炎の農場も除糞の頻度が少ないため、糞尿による湿潤環境が最も感染のリスク要因と考えられます。

その他、宿主の免疫力も重要な要因とされており、蹄の疾病予防のためのビタミンやミネラル含有の飼料添加剤などもたくさん販売されています。

蹄浴の方法

 まずはじめに、蹄浴がそのそも必要なのか?また実施可能であるかどうかを考える必要があります。

まず必要性についてですが、蹄浴の目的は、M1やM4.1をM2へ移行させない点にあります。M2のように病変が進行した個体を蹄浴群として管理してしまうことは、逆に病原体を伝播するリスクがあります(M2は個体ごとの治療が必要があります)。そのため、まずは発生率の把握ステージの分類・記録は蹄浴を導入するにあたって最も重要な手順となります。

次に、導入が可能かどうかですが、舎飼で繋留されている場合は蹄浴は利用しづらいです(繋ぎでもパーラー形式で搾乳している場合は除きます)。パーラー形式の場合であっても、農場内にフットバスが効果的な場所に、理想的な構造で設置できるかは重要なポイントとなります。場合によっては設置に改築などの大きな費用を必要としてしまうケースもあります。

蹄浴の実施頻度ですが、蹄浴が行われる回数が多ければ多いほど治療の効果は高まるとされていますが、当然コストが高くなってしまいます。1日2回、週に3〜4日間以上連続して実施するとより効果が得られるようですが、継続的に行うことが大前提のようです。

硫酸銅は利用すべきでないのか

硫酸銅については先にお話したように、環境への負荷が課題となります。世界的には使用を禁止する方向へ向かっているようですが、日本では現在でも禁止とはされていません。

こうしたことから「北海道別海町の牧場における銅環境の現状」という内容で、酪農学園大学およびトータルハードマネージメントの先生方より2021年に報告されています。自給飼料の作付け面積の大きい北海道では、現在でも硫酸銅を使用した蹄浴が行われています。報告の中では、自身の牧草地に散布された硫酸銅が、牧草やその牧草を給餌されている牛にどのように影響を与えているかを調査されています。 こちらの報告によると、牧草中の銅の濃度は通常よりもやや高く含有されていましたが、それを食べた牛における影響は認められなかったとのことです。

いずれにしても今後も硫酸銅の使用についてはモニタリングしていく必要があるとのことでした。こうした背景から現在では「代替剤」と併用し使用頻度を少なくすることや、イオン化硫酸銅などの利用も推奨しているようです。

蹄の予防の重要性

牛の蹄の疾病による、カウコンフォートの喪失と、経済的な損失は数十年も前から研究されてきました。私が大学生であった十数年前と比べても、蹄に関する研究は大きく進歩しており、実際の現場でも大きな成果が出ているようです。

一方で、に関する疾病に立ち向かう現場の獣医師は、昔から「乳房炎」や「繁殖障害」のように多くはありません。蹄の診断や治療の技術はもちろん経験を必要とするところが大きいと思いますが、ほんの少しでも最初は良いと思います。1〜10の差よりも、0〜1の間には非常に大きな差があると思います。2020年に出版されました「牛の跛行と蹄管理」には、蹄の解剖学的な構造から、削蹄方法、また治療・予防方法が具体的にイラストを用いて分かりやすく説明されています。

0〜1へ知識を身につけたときは、獣医師としての世界観がもしかしたら変わるかもしれません。

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