コストを下げて利益率を上げる

ニュースや新聞でも取り上げられているように、酪農業界も経営に非常に厳しい状態が続いています。ここ最近では、少し円の需要が高まり、1ドル=129円まで戻ってきましたが、まだまだ先が見通せない状態です。
飼料価格の高騰により、国や地域の補助金が給付されたり、乳価が10円ほど上昇したものの、利益は横ばいというのが現状ではないでしょうか。また、経営方針においても、売上を伸ばす < コストを下げて利益率を上げる という方針に転換した農場も多いかと思います。
ではコストを下げるためにはどういった方法があるでしょうか?
効果の出るスピードで速い順にそれぞれ挙げてみると
- 生活水準を下げる(家庭の支出)
- 施設費の節約(修繕などDIYできる部分)
- 飼料費の見直し、変更
- 労働費・人件費の見直し(大規模農場)
- 生産効率の向上(疾病の減少、低能力牛の選抜・淘汰、繁殖成績の向上など)
このようにさまざまな方法がありますが、今回は、本題である「飼料費の見直し、変更」に絞って考えてみたいと思います。ここでは飼料を、「牧草」や「濃厚飼料」などを「主飼料」。それ以外の「添加剤」などを「副飼料」と分けることとします。
飼料内容の見直し
飼料内容を見直すための最初のステップとしては、今現在、1頭当たり1日でどれくらい費用がかかっているかを把握する必要があります。まずは「主飼料」が〇〇円、「副飼料」が△△円と分けて計算できると良いかと思います。また、経産牛だけでなく、乾乳牛や育成牛(分娩するまでの費用を算出することができます)も把握できると良いかと思います。
次に現在使用している「副飼料」について以下の2点について考える必要があります。
- 給与効果・目的を把握する
- アミノ酸製剤、生菌剤、カビ吸着剤などは価格や効能も異なる
- 必要量を把握する(そもそも必要か?給与量は適切か?など)
- Ca剤や各種ビタミン剤などの必要摂取量は日本飼養標準などにも記載あり
添加剤を否定するつもりはないのですが、人間で言うところの、適度な運動や食生活が第一で、サプリメントはあくまで補助といったところです。必要量などは日本飼料標準や飼料計算ソフトで算出できるかと思います。過去には、ビタミン剤などを10倍量で給与していた事例や、哺乳子牛に多種類の生菌剤や添加剤などを使用していた事例もありました。
続いて「主飼料」となります。4つのステップに分けて考えていきます。
- それぞれの牛群に対する給与量や栄養バランス(充足)の把握
- 自分の知識や経験を頼りに給与量を設定している農家さんもいますが、一度はデフォルトとして把握しておいた方が良いでしょう(分析値が変動する自給飼料を給与している場合は特に)。
- 餌の価格が適切かどうかを比較
- 取引している飼料会社を頻繁に変更することはおすすめしませんが、最低2社以上と取引していた方が、価格や在庫のリスク分散をすることができます。また、新規で餌を勧められた場合などは、その餌が栄養価に対する価格として適切かどうかを判断する必要があります。特に使用量の大きい牧草などでは、1kg数円程度の差額が、年間で数百万円ほどになることもあります。
- 代替が可能かどうか?
- もちろん、牧草の変更や、自給飼料の利用率の向上なども大切な手段ですが、ここでは、栄養バランスを維持しつつ、低価格な「副産物飼料」などで置き換えることができるかどうかで考えます。「副産物飼料」の分析データをもとに、飼料設計を行います。
- 変更後の費用効果の算出
- ③と同時に、変更後の効果がどれだけ得られるかを算出。価格だけでなく、労働力の変動なども考慮する必要があります。特に粕類などは多くが水分を多く含んでいるため、保存性や、物量の大きさが労働力の大きな負担にもなります。
①〜④において実際に、給与変更した場合、牛群がどのよう反応したかを観察しながら修正する必要があります。
副産物飼料を使用するための注意点
- 飼料特性を理解する
- 飼料分析値の確認(実数値、参考資料など)
- 安全性の確認(大腸菌、カビなど保存性)
- 嗜好性の確認
- 価格の確認(水分ロス、乾物換算)
- 供給手段や供給量の確認(季節変動など)
以上をクリアした上で飼料設計を実施
飼料特性を理解する
豆腐粕・豆乳粕 (おから)

「豆腐粕・豆乳粕(おから)」は、大豆から豆腐や豆乳を製造する過程において、豆乳を搾り取った粕です。

栄養価の特徴としては、消化速度の速い、高タンパク、高エネルギー(脂肪、繊維)となります。水分含量が高いため(約80%)劣化しやすいのが特徴です。大きな工場では、乳酸菌の添加によりサイレージ化されていることがありますが、小さな豆腐屋さんでは品質の劣化が非常に速いため注意が必要です。
成分値としては、乾物でCP:25~30% EE:10~15%あります。脂肪含量が高いため、飼料設計する際は注意が必要です。また、製造工程の微妙な違いから、豆乳粕の方が、豆腐粕よりもCP,EEそれぞれがやや多く含まれているようです。また、脱脂した大豆を製造に用いた場合は、脂肪含量が低い場合があるため、いずれにせよ飼料分析することが必要となります。
まずまずの嗜好性のようですが、水分含量が非常高いため労働力の負担となります。しかし、粕類の中では、分離給与でも給餌しやすい餌と言えます。
ビール粕
「ビール粕」は、ビールの製造過程で麦汁濾過により搾り取られた残りです。アルコール発酵する前の残渣のため、酒粕のようにアルコールは含まれていません。

栄養価の特徴としては、高タンパクに加えて、多くの繊維を含んでいます。ほとんどのビール粕はメーカーによるサイレージ化により保存性が増していますが、夏場などは二次発酵しやすいため早めに給与する必要があります。
成分値としては、乾物でCP:23~28% EE:5~10% NDF:50~60%前後あります。ビールや発泡酒の違いや、各メーカーによる醸造の仕方により成分値が異なるため飼料分析は必要となります。
酒粕

「酒粕」は非常に栄養価が高く、飼料のみならず人の食品にも多く利用されています。日本酒を製造する過程で、アルコール発酵した後にろ過をした残渣が酒粕となります。

栄養価の特徴としては、消化速度の速いタンパクが非常に高く含まれています。また、粕類の扱いにくい部分でもある脂肪含量は低く、アミノ酸などを多く含んでいるため粕の王様と言えるでしょう。製造メーカーによっては、酒米の磨きの割合により成分値(タンパクやデンプン)が大きく変動することがありますので、必ず飼料分析をする必要があります。
嗜好性が非常に高く、酒粕の塊でも選んで食べるほどだそうです。ねっとりとずっしりとした物であるため、給餌方法にはやや難があり、TMRでもダマになるくらいですので、分離給与にはあまり向かないようです(できる方法を模索中)。
成分値としては、乾物でCP:50~70% EE:5%未満 と非常に飼料設計しやすい値となっています。消化速度が非常に速いため、同じく消化速度の速い米粉などとバランスを取る必要がありそうです。
焼酎粕・ウイスキー粕(蒸留酒)

焼酎やウイスキーといった蒸留酒を製造する際に残ったものが「焼酎粕」です。焼酎粕は従来は海洋に廃棄されていましたが、海洋汚染防止法の制定に伴い、家畜の飼料への利用へ移り変わっていきました。
蒸留酒は、発酵液を加熱してアルコールを気化し精製します。アルコールは水よりも沸点が低いため、集められたアルコール液は濃度が高くなります。発酵液を加熱した後の残りが焼酎粕となります。

図でも分かるように、焼酎粕は90%以上が水分となるため、保存性が非常に悪い点があります。そのため固液分離や乾燥により60%近くまで濃縮した後に飼料として利用されています。中には粉末に近いほど加工されたものなどもあるようです。(液体よりも固形に近い方が保全性も取扱も優れています)
栄養価の特徴としては、消化速度の速いタンパクが非常に多く含まれています。(芋、米、麦でタンパク含量が異なります)水分含量が高いため多くはTMRに混ぜて使用します。また、嗜好性にも優れています。
成分値としては、乾物でCP:30~45% EE:3%未満 と酒粕に類似しています。消化速度が速いため、注意してデンプンとバランスをとる必要があります。芋はCP:30%前後で繊維も含んでいます。米や麦はCP:40%以上と原料によって異なる傾向があります。
しょう油粕


「しょう油粕」はしょう油もろみを絞って、しょう油を製造する際の副産物です。
栄養価としては高タンパク、高エネルギー飼料となります。また、嗜好性も高く、水分含量も低いためTMRでも分離給与でも利用することが可能です。しかし塩分濃度や脂肪含量が高いため、飼料設計の際には注意が必要となります。
成分値としては、乾物でCP:25% EE:15% NDF:25% 灰分:10%あります。
米ぬか
玄米の胚芽などを削って(精米)出てきた粉が「米ぬか」となります。通常は油を含んだ生ぬかですが、油分を搾り取った脱脂米ぬかも飼料として利用されています。

栄養価としては高タンパク、高脂肪です。脱脂米ぬかでは脂肪が低くなっており、無洗米ぬかなどではデンプンが残っています。脂肪分が非常に高いため、肥育に向いている餌といえるでしょう。
成分値としては、乾物でCP:18% EE:25%あり、脱脂の場合などは飼料分析する必要があります。
米粉、くず米、その他

副産物飼料となると、ほとんどがタンパク源や脂肪源となります。米類はとうもろこしや、大麦などと並んで貴重なデンプン源となります。しかしながら、非常に消化速度が速いため、ルーメンアシドーシスに注意しながら利用する必要があります。
他にも「ジュース粕(主に消化しやすい繊維)」や「茶粕」、「大豆皮」など様々な副産物飼料が利用されるようになっていますが、成分分析と嗜好性、そして一胃内での発酵を保ちながら使用する必要があります。
まとめ
様々な副産物飼料が利用されていますが、成分ごとにまとめますと
- タンパク質
- 豆腐粕・豆乳粕、ビール粕、酒粕、焼酎粕、しょう油粕
- 脂肪
- 豆腐粕・豆乳粕、しょう油粕、米ぬか
- デンプン
- 米粉、くず米
副産物飼料で共通点としては、いずれも消化速度が速いため、第一胃内での発酵を意識する必要があります。また、タンパクだけでなく脂肪も高い場合もあるため、給与量に注意しなければなりません。
最後に、副産物においてもデンプン源はとても貴重な物です。自給飼料によって、トウモロコシといった貴重なデンプン源をぜひ確保して、バランスの良い飼料設計を行なっていきたいものです。
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