臨床獣医になって、3年ほど過ぎると、病気に対して「治療」から「予防」へ考え方がシフトしていきます。おそらくこれは、病気が治った満足感よりも、病気が次から次へと湧いてくる残念感の方が優ってくるからだと思います。
酪農家さんの疾病発生による経済損失を考えつつも、「乳熱」、「ケトーシス」、「乳房炎」などルーチン化した診療などに自分自身が嫌気を感じていることも一つの要因かもしれません。
「予防」には何をすれば良いのか?
「予防」のためには、大きく分けて「飼養環境」と「栄養」について学ぶ必要があると思います。
勉強のしやすさとしては、
「飼養環境」>「栄養」でしょうか。
というのも、「飼養環境」は視覚的にも、メカニズムとしても理解しやいことが挙げられるでしょう。
一方、「栄養」の方は、化学式や計算式、分析値、英語表示などあげればキリがないほどの用語や数値が、まるで暗記科目のようで、脳の拒否反応が出てしまうのではないでしょうか。
さらに、指導のしやすさで考えてみても
「飼養環境」>「栄養」ではないでしょうか?
その理由として2つ挙げられます。
1つ目は、自分自身の理解が深いため、丁寧な説明がしやすいという事です。また、勉強しやすいという点は農家さんも理解しやすい事につながります。
2つ目は、「飼養環境」について述べられていることが、理論的におそらくほとんどの農場に当てはめることができるからではないでしょうか。例えば子牛の管理において、「衛生的で、冬も暖かい環境が良い」という内容は、どんな農場にも当てはまりますよね。
一方で、「栄養」の場合、共通の理論としてはあるにせよ、「A農場の飼料設計値が、B農場にピッタリ当てはまる」ことは考えにくいと思います。これは、飼料設計の数値を決定するための要因がたくさんあるためです(牛群、季節、飼料成分ほか・・・)。
これらのたくさんの要因が、「栄養」もしくは「飼料設計」に抵抗を持ってしまう原因ではないかと思います。
「飼料設計」に対する抵抗を無くすためには?
私自身が始めたこととしては
- 実際に手に取ってみる
- 牧草の見た目や色、硬さ、匂いなど比較してみる
- 成分の違いを調べてみる
- 飼料特性や分析値など
- メニューの中身を聞いてみる
- 大まかな給与量を感じる
- 農場間の違いを考えてみる(購入、自給)
- 牛の必要とする要求量を考える
- 飼養標準などを参照
まだまだ私自身も勉強中ではありますが、このステップを達成することで、パソコンがなくとも大まかな飼料設計ができるようになると思います。
もちろん、飼料効率、高乳量、エコフィードの利用など、さらなるレベルで設計する場合には、飼料分析や飼料計算ソフトを用いてメニューを組む必要がありますが、1〜4のステップは常に実施していく必要があります。
こちらの本は今年の1月に発売されました。過去の「臨床獣医」で連載された内容を中心にまとめられており、「飼料設計を初めてみよう」と思えるきっかけとなるような本です。
目次
- 飼料設計をはじめるための基礎知識
- 粗飼料給与の基礎知識
- 給与粗飼料に基づく飼料設計
- 溶解性繊維を理解する
- デンプンの消化速度の違いとその重要性
- 乳牛の飼料としての糖の重要性
- 乳牛のタンパク質飼料の違いによる飼養設計例
- 乳牛いおけるアミノ酸栄養と飼料設計例
- 乳牛における油脂給与について
- ミネラル給与の基礎知識
- 分娩後の低カルシウム血症予防のためのDCAD理論の応用
- ビタミン給与の基礎知識
- 飼料価格高騰に対するエコフィードを利用して飼料設計例
- アメリカにおける乳牛の飼料標準であるNASEM2021とは
ハードヘルスを学んでいる頃、「餌は最後」と言われたことがあります。ほとんどの農場ではこの言葉が当てはまることが実際には多いです。しかし、同時に大きく飼料設計を間違えていることも珍しくありません。0〜1の部分である「基礎」を習得していることでも、2〜10を習得する以上に疾病の予防に貢献することができます。
この記事で、一人でも「飼料設計」の勉強を始めるきっかけとなれば幸いです。
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