フリーストールやフリーバーンなどで、連動スタンチョンを設置している牛舎では、横にネックレールのみのフリースペースが備えてある場合があります。このスペースの主な目的としては、スタンチョンに順調されていない牛や、過去にスタンチョンに対するトラウマなどがあり、どうしても入らない牛でも採食できるように備えてあります。
今回は、貴重なこのスペースを、さらに有効利用する方法を2つ紹介したいと思います。
①TMRではなく、反芻を促す牧草を設置する
分娩後の間も無い牛にとって、給与メニューが乾乳期から泌乳期に急激に切り替わることは、ルーメンアシドーシスに陥るリスクがあります。比較的、第一胃内pHの変化が緩やかであろうTMRの給与においても、このリスクを完全に防ぐことはできません。そこで、このリスクを軽減させるために、このスペースに牧草を設置(私はスーダンやチモシーを選択しています)します。
比較的、メニューの切り替えに慣れていない牛(分娩後1ヶ月以内)ほど、このスペースに与えられた牧草を採食している姿が観察されました。また、繁殖検診のフレッシュチェックでは、子宮の順調な回復が認められたり、ボディコンディションの落ち込みが軽減しました。
アルバータ大学の大場先生の研究によると、高デンプンTMRのみを給与された場合、胃もたれを起こした牛たちが選べる選択は、「喰う量を減らす」か「喰ってルーメンに負担をかける」の2つとなる。ここに、自由採食できる牧草を与えた場合は、無い場合と比較して、より生産性が向上したとのことだ。理由として、2つの選択肢の間に当たる、第3の選択肢を牛が選ぶことができたためだと推察している。
高デンプンTMRを給与した場合に限らず、固め喰いや選び喰いが起こり得る牛群においても、逃げ道として、第3の選択肢を用意することは、牛群の健康と生産性を向上させる有効な手段だと考えられます。
炭酸水素ナトリウム(重曹)の設置
夏期に、ルーメン内pHの低下を防ぐことを目的として、TMRに重曹を混合、もしくは重曹入りの鉱塩を設置する方もいると思いますが、ここでは炭酸水素ナトリウム粉末(以下、重曹)の設置を紹介します。
唾液中に多く含まれる成分でもある重曹は、バッファー(pH緩衝剤)として飼料中にしばしば添加されています。しかし、牛はあまり好きではないためか、重曹の給与量が多くなると、採食量が低下するといった、「与えにくさ」という問題も持っています。そこで今回は、この「与えにくさ」という問題を解決するために、あえて重曹を自由採食させてみました。対象の農場では、夏期のみならず冬期にも、ルーメンアシドーシスが原因と疑われる、乳脂肪率の低下を認めました。そこで、通年、重曹をフリースペースに設置したところ、驚いた事に、冬期においても自ら重曹を摂取する牛が、多数観察されました。先程の牧草と同様に、必要に応じて自ら、摂取量を調節している様でした。
重曹設置のメリットをまとめると
- 強制摂取による、採食量の低下を防ぐことができる
- 必要とする量を、必要とする時間に摂取することができる(牛自身が調節しているようだ)
もちろん、ルーメンアシドーシスの対策としてはこれだけではありませんが、現在でも、年中、自由摂取できるように設置し続けています。
他にも炭酸カルシウムを設置している農場など、様々な利用方法があるようです。ぜひ、実際に試していただきたいと思います。
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