豚ではもう当たり前。子牛の去勢手術はもうなくなるのか!?

片方しか玉が無いようなので手術お願いします。

今月3頭目の依頼です。

後継牛が確保できているためか、

副産物収入としての価値が高くなってきているためか、

わたしの地域では乳用牛からの肉牛の出生が年々増加しているように感じます。

同時に、「去勢」や、「潜在精巣」といった稀な手術の機会が明らかに増えた気がします。

去勢手術に関しては、簡便な術式が普及したことで、大きな負担を強いられる状況ではないのですが、

潜在精巣」の手術に関しては毎月数頭も開腹手術となると…

去勢」について検索していたら、面白い論文見つけました。

結論として、「薬の投与だけで将来去勢手術をする必要がなくなる

という内容です。

では詳細を説明していきます。

目次

日本でも豚はすでに投薬によって去勢の必要がなくなってきている?

zoetisホームページより

2010年に日本で「インプロバック」という免疫学的去勢製剤が豚で承認されました。

この薬の作用としては、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)に対する抗体により、精巣機能を抑制します。これにより精巣自体を小さくし、肉としての価値を低下させてしまう原因となる雄臭」を抑制することができます。結果として、去勢を実施せずとも肉としての価値を維持することができるようです。

まだまだ肉質の影響や、雄判定」の割合の改善などの課題があり、接種方法や時期など研究がされているようですが、今後も「動物福祉」の観点から研究が進んでいくと思われます。

日本の牛における承認薬は?

インプロバック」と類似となる薬品は牛ではすでに承認されているのでしょうか?

残念ながらありません。しかし、薬は販売されています。

zoetis ホームページより

ボプリバ」という製品が最近発売されました。しかし「インプロバック」とは使用目的が異なります。説明書記載の効能としては、牛の発情行動の抑制とされています。

使用目的としては、肉用として飼育されている雌牛の、発情行動による事故・損傷を予防することです。例としては、滑走による股裂や神経麻痺、筋損傷による廃棄などが挙げられます。

作用機序としては、投与牛にGnRHに対する特異抗体を産生・中和、結果としてGnRHの作用を抑制します。(雄牛:テストステロン、雌牛:エストロジェンプロジェステロンの産生を抑制)

この薬は日本においては、(去勢に替わる作用としての)雄牛」への投与は承認されていません。

海外での「雄牛」における使用例

先程の薬は、海外では一足早く「雄牛」への投与が承認されています。また、たくさんの論文の投稿もありましたので載せています。

  • Effects of an anti-gonadotrophin releasing hormone vaccine on the morphology, structure and function of bull testes. (2020)
  • Effect of a single or two doses of an anti-GnRH vaccine on testicle morpho-functional characteristics in Nelore bulls. (2021)
  • Oestrus suppression in a dairy herd by means of anti-GnRH vaccination Improvac®: A prospective field study. (2020)
  • Effects of active immunization with newly modified GnRH peptides on spermatogenesis and production performance of Holstein bulls. (2018)
  • Effect of vaccination against GnRH (Bopriva®) in the male pubertal calf.(2010)

海外においては「動物福祉」の観点から、「去勢」から「投薬」へすでに移行しているようです。報告によると、GnRHワクチン接種により、豚と同様に精巣機能を抑制することができ、去勢をせずとも良好な肉質・枝肉重量を得ることができたとのことです。

まとめ

黒毛和種
ホルスタイン種

現在のところ、「去勢の代替」としての承認は日本においては認められていないものの、研究機関における研究は実施されているようです。「肉質」に特にこだわりのある「黒毛和種」においては、まだまだ普及には時間がかかると思います。一方で、「交雑種」や「ホルスタイン種」ほか一般的なニーズのある品種においては、普及する可能性は十分にあるのでは無いでしょうか

現場の立場からすると、「潜在精巣」といった、診断や手術に手間のかかる症例だけでも、こういった免疫学的去勢製剤の投与だけで「肉牛」として出荷してもらえると大変ありがたく感じますね。

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