「獺祭(だっさい)」とは、山口県にある「旭酒造」という酒蔵が製造している日本酒の事です。お酒の知識もないわたしにも知られているほど、世界的に有名なお酒です。
しかし、今では世界的に有名な酒蔵ですが、倒産寸前まで追い込まれた時期があったそうです。その酒蔵が現在の地位に至るまでのストーリー、戦略がこの本に記されています。
【業界研究】あったのは「お客様が幸せになる酒造り」という信念
— 紀伊國屋書店仙台店 (@Kino_Sendai) May 29, 2017
人なし、モノなし、金なし・・。でも大丈夫。結局、「仕組み」をつくった人が勝っている!潰れかけた酒蔵から「売上日本一」を実現したV字回復の法則!
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この「獺祭」と「酪農」の関連性?
「飲み会?」「よく飲むよ!」「未来?」「大げさだなあ。」
「…」
「ある意味正解です…」
この本を読んでみて、この「獺祭」を造る考え方は、「酪農」にもとても当てはまる。と、正直興奮しました。今回は、「獺祭」と「酪農」の共通点をちょっとまじめに考えてみます。(ちょっと獺祭を飲んでみたくなるかもしれません。)
「獺祭」と「酪農」の共通点とは
ざっくりとした共通点を挙げてみると、3つ挙げられます。
1つ目は、ご存じの方もいると思いますが「酒粕」です。日本酒を製造する際に廃棄される「酒粕」は、酒造メーカーにとっては「産業廃棄物」となります。
もちろん酒造メーカーも再利用、商品化していますがほとんどは廃棄されてしまいます。しかし、酪農においてはとても貴重な「飼料」として再利用しています。経済面だけでなく、地球環境にやさしい取り組みとしても、お互いが関係性をもっています。
2つ目は、同じく食品を製造するという事です。酪農業では、安心・安全な牛乳や牛肉を、職人である飼い主が毎日生産しています。お酒は麹の発酵や管理が、品質に大きく影響します。一方、牛乳においては、餌や環境の変化が生産量や品質に大きく影響を与えます。それぞれ「生きたもの」からより品質の高いものを生産する、という点は共通点と言えるでしょう。
3つ目は、消費の低迷により、産業全体が苦境に陥ったことがあるということです。一時期は「倒産」寸前まで追い込まれた「旭酒造」ですが、「獺祭」を産み出したことで見事にV字回復しました。現在の酪農情勢は、まさにかつての酒造産業と同じ状況ではないでしょうか。今後の酪農において、常識を破る(イノベーション)ようなアイデアや技術により、V字回復させるんだという期待を込めて共通点としました。
この中でも2つ目と、3つ目の共通点を説明したいと思います。
お酒を作るには

日本酒を作る工程は、基本的にはどこの酒造メーカーも同じです。原材料である「米」や「水」、「麹」そして「製造環境」が異なることで、これが味の違いにつながるようです。中でも「杜氏」と呼ばれるリーダーと、その仲間である「蔵人」の経験が品質に与える影響は、特に大きいとされていました。
酪農においても同じようなことが言えますね。「親方」と「従業員」の知識や経験は酪農経営に大きな影響を与えます。「人は財産」とはまさにその通りですね。
一般社員でお酒を作る
旭酒造が以前窮地に陥った時、さらなる追い討ちがありました。最も重要とされていた「杜氏」が不在となってしまったのです。酪農で例えると「親方」が急に不在。という状況ですね…
この窮地の際、社員でお酒を作ることになります。当然、「経験」も「勘」も持っていないため、徹底的に酒造りの工程を、数値とデータを参考に行ったそうです。(今でも継続しています)「経験」と「勘」を数値化して徹底的に「見える化」したのです。
最終的に、このデータ分析により徹底的に管理された手法は、「杜氏」の持っている経験と勘を超えてしまったのです。(ちなみにデータ分析 ≠ 機械化 手作業で行う工程も多いそうです)
こうして親方不在の中、「獺祭」が誕生したのです。
富士通と連携して最高の酒米を確保する

お酒造りに欠かさない要因の一つとして「米」があります。「酒米」と言われ、通常の米より粒が大きいのが特徴です。特に「山田錦」という品種が最も酒造に最適とされ、おいしいお酒は現在でも「山田錦」で造られたものが多いようです。(わたしも道を走っていて「山田錦」の看板を見たことがあります)
当然、人気もあり生産量も少ない(作れる地域が限られている)ことから、入手が困難です。一般的に、酒造りは冬季のみ行われるようですが、「旭酒造」は年間通して製造する、という常識破りでしたのでより多くの「山田錦」を必要としました。
そこで、IT産業である「富士通」と連携して、IoTを利用した「山田錦」の大量かつ安定した生産を実現してしまったのです。「農業」と「IT」、まさに今急速に発展していることを、「旭酒造」では先駆けて当時行っていたのです。
常により良いものを届ける
一般的に、物の価値となると、 品質の高いもの = 生産量少ない
さらに、 品質の高いもの = 価格高い
だと思います。ところが、「獺祭」は品質が「高く」ても 生産量が「多く」、価格も「安い」を常に実現しています。「イノベーション」とは言い過ぎかもしれませんが、これはそれに近い一つの例だと思います。「逆説・矛盾」を実現する。そのため、毎日毎日、失敗も含め試行錯誤しているそうです。
こうした改良の結果、日本人だけでなく、海外でも消費者に好まれているのですね。
ニューヨークの現地の方に、もっと獺祭を身近な存在に感じてもらえれば⚾️😌
— 獺祭 Dassai【公式】 (@DassaiSake) April 6, 2022
「獺祭」旭酒造がニューヨーク・ヤンキースとスポンサー契約、スタジアムで広告展開、一部シートで清酒提供も|食品産業新聞社ニュースWEB https://t.co/UPm8JFNdK3 @ssnp_coより
酪農業界では、コロナも影響しているとは思いますが、やはり牛乳が消費者から離れている事実も否定できないと思います。「乳製品」として確かに好まれていますが、「牛乳」がおいしいという認識がもっと大きくなる必要があると思います。
「牛乳」というと、小さい頃からの給食のイメージがあります。「栄養」のために普通に飲んでいましたが、「感動するほどおいしい」と頭に刷り込まれたことは残念ながらありません。一方で、旅先の牧場で飲んだ牛乳は「感動するほどおいしい」と刷り込まれていますし、みなさんも同じではないでしょうか。
「感動するほどおいしい」牛乳がスーパーで「安く」売られている状況こそ、まさに「イノベーション」でしょうか。
新規就農のカギ
昨年、わたしの地域では新規就農した牧場が2件ありました。そのうちの1件は酪農経験が少ない方でした。新たに施設や機器をそろえたわけでもなく、古い農場を引き継ぎました。手技などは1ヶ月ほどは不慣れではあったものの、それ以降はすぐにできるようになっていました。
体力もさることながらスポンジの様に何でも正しく吸収し、現在も順調に経営を続けています。
飼料計算、モニタリングのスコア化、検定データを用いた経営・繁殖状況の数値化。こういった客観的なデータも飼養管理の指針に取り入れたことも成功の要因の一つだと思います。(一番の要因は、本人がとてもポジティブであることですが)
「伝統」「経験」「勘」も重要ではありますが、アップデートすることも時には必要だと思います。新規就農の酪農家が成功要因の一つは、このようなアップデートされた知識や情報ではないでしょうか。
これからの酪農

世の中には日本酒産業と同じように、市場がどんどん小さくなっている産業、業界がいくつもあります。しかし、そうした環境に付き合う必要はありません。ピンチはチャンス。市場が縮小している業界には問題や矛盾が存在するので、それさえ見つけて解決できれば、必ず道は開けます。
この本の著者の言葉を引用した文です。この本の執筆が2017年。
当時から5年経った今、まさに「酪農」業界が直面している状況ではないでしょうか。「一生懸命頑張る」だけでは困難な状況。イノベーションが必要とされているのだと思います。
「伝統」、「経験」、「勘」を打ち抜くような新しい発想が生まれることを願って。
牛乳で乾杯。
参考図書:「獺祭の口ぐせ」、「逆境経営」、「ビジネスモデル2.0図鑑」
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