3月、管内の農家さんへ向けて、ワクチン接種の頭数の取りまとめを行います。
ワクチンは「炭疽」と「異常産4種」の2種類。
ところが、このワクチン接種の取りまとめに対する希望頭数は毎年少ない…
結局、現場でワクチン接種の有効性を説明して、ようやく実施することになる。
最近の発生事例が管内で確認されていないため、危機感は薄れてしまっている。
ところで、実際のところ接種する必要はあるのだろうか?
「炭疽」については、以前記事を書きましたが、

今回は「異常産4種」について考えてみたいと思います。
先に出した結論を言ってしまうと…
やはり接種するべきでしょう。
ではその根拠について説明いたしましょう。
「異常産4種混合」ワクチンとは

「異常産4種混合」ワクチンには、
- 「アカバネ病ウイルス」
- 「チュウザン病ウイルス」
- 「アイノウイルス」
- 「ピートンウイルス」
の4種類が含まれています。「異常産3種混合」ワクチンに「ピートンウイルス」が加わった不活化ワクチンです。
吸血昆虫(ヌカカ)により伝播するため、吸血昆虫が発生する前に接種する必要があります。胎子に影響を与えるだけでなく、生後感染による起立不能などの事例も報告があることから、育成牛にも積極的に接種をしています。
「ピートンウイルス」とは
「4異常産種混合」ワクチンに含まれている「ピートンウイルス(PEAV)」と何でしょうか?
「アカバネ病ウイルス」と「アイノウイルス」と同じ、ブンヤウイルス科オルトブンヤウイルス属に属するアーボウイルスです。関節の屈曲などの体型異常の他、小脳形成不全などの神経系の異常といった、「アカバネ病」と類似した症状が報告されています。発生率は1%満たないとの知見もありますが、九州、中国地方での近年の発生が報告されています。
接種すべき根拠1(発生状況)
接種するべき根拠の1つとして、発生状況が挙げられます。下の図は、平成10年〜令和3年度のアカバネ病の発生状況です。(農水ホームページより集計)

過去20年において、ワクチンの普及により明らかな減少傾向が見られるようです。しかしながら周期的に多発する傾向も見られます。また、報告されていないようですが、ウイルス性の異常産が疑われる奇形の発生を最近でも耳にしたことがあります。
農研機構のホームページより、「おとり牛を用いた抗体調査」からウイルスの流行状況を確認することができます。
こちらの調査結果によると、周期的に抗体陽転牛が認められているようです。疾病の発生報告は0ではありますが、ウイルス蔓延のリスクは無くならないようです。
接種すべき根拠2(経済的損失)

異常産による経済的損失とは、①異常産による胎子の損失と②母牛における泌乳量の減少が主な損失となります。
異常産の発生率については5%未満〜10%強と様々な報告があります。吸血昆虫が媒介するため、日本でより南部の地域において発生率はより高くなると考えられます。一般的な死産に加えて異常産が流行すると、10%以上の異常産の発生が起こることになります。子牛の市場価格は品種などにより様々ですが、大きな経済損失となります。
一方で、母牛においても大きな経済損失が算出されています。体格異常にともなう分娩事故による廃用もさることながら、分娩後の泌乳量の減少が認められます。日本における異常産にともなう泌乳量の減少を報告しました論文がありましたので紹介させていただきます。
Loss of milk yield due to Akabane disease in dairy cows (J Vet Med Sci 2005 Mar;67(3):287-90. doi: 10.1292/jvms.67.287.)
正常に分娩した場合と比較して20%強の乳量の減少が見られたそうです。また、妊娠中期などで流産した場合では、泌乳の減少だけではなく淘汰につながる可能性も高く、非常に大きな損失となります。
1頭あたりのワクチン接種料が2000円前後。
多大なリスクから逃れるためには継続して接種するべきではないでしょうか?
コメント