診療の時に、じっくりと外見を観察していると、目の異常に気が付くことありますよね。
- 眼球の白濁
- 眼内の出血・充血
- 眼球突出
- 腫瘍
- 眼振
- 目の大きさ(大きい、小さい)
- 斜視
- その他
牛の診療現場でよく遭遇する順に並べるとこれくらいでしょうか。
眼球突出などは後天性であれば、「牛伝染性リンパ腫」などのイメージが強いでしょうか?眼球の白濁に関しては、白濁の部位、先天性 or 後天性などそれぞれ原因が異なると思います。
今回は生まれつき眼の異常を呈した3症例について原因を考えてみます。
症例1
- ホルスタイン種(受精卵)
- 雌
- 出生時より起立不能(横臥位)
- 両側眼球白濁(左>右)
- 心雑音聴取(中隔欠損?)
- 眼瞼反射微弱
高ゲノムの受精卵産子なのですが、難産により仮死状態で出生。物理的な刺激?により特に左眼では、眼球白濁と重度の浮腫を認めましたが、右眼も中心部より外側で白濁が観察されました。両側の白内障と、外傷性の角膜炎・浮腫を合併していたのでしょうか。現在、ビタミンAの測定中。BVDVについても検査依頼中。
症例2
- ホルスタイン種(受精卵)
- 雌
- 一般状態に異常認めず
- 出生時より眼球白濁
- 母牛も斜視や眼球白濁の異常あり
こちらの子牛は目も見えており、現在のところ健康状態や発育にも問題はないようです。両眼の水晶体の中心部に白濁が見られますが、その他の異常は観察されていません。この子牛の母牛も実は両側に先天性の白内障と斜視を認めていました。母牛はBVDVの検査では陰性でしたが、発育不良などは認めました。(当時はBVDVだと確信していましたが…)症例1と同農場のため、ビタミンA欠乏なども考えられました。
症例3
- ホルスタイン種
- 雌
- 出生時より山羊の様に虹彩の色素が薄い
- 視力良好
- 成長後も虹彩色素の改善は認めず
こちらの子牛も目は見えており、現在のところ健康状態や発育にも問題はないようです。瞳孔(黒目)周囲の色素が薄く(通常は黒色)、水色〜茶色に見えます。瞳孔の収縮なども異常を認めず、周囲の様子も見えているようです。珍しい症例だと思っていましたが、この2ヶ月くらいの間で同じ症例に3頭遭遇しました。
白内障とは
白内障とは、加齢にともないレンズの役割をしている水晶体が白く濁る病気です。症状や部位の違いから、「核白内障」、「皮質白内障」、「後嚢下白内障」と分類され、人の医療においては治療法や予後も異なる様です。
今回は牛で多くみられる、先天性白内障について説明します。主に以下の原因が挙げられます。
- 感染(BVDVなど)
- 遺伝子変異
- 低ビタミンA(ビタミンE欠乏症でも発生報告あり)
- 酸化ストレス
水晶体の器官形成期である、胎齢17〜45日に障害を受けると先天性の白内障になるリスクが高まるとされています。また、胎齢75〜150日にBVDVに感染すると、視神経細胞各種に損傷を与え、盲目や白内障の合併などを起こす場合もあります。
症例2は核内白内障の様に見られます。一方、症例1はびまん性に白濁を認めますが、反対の眼は皮質白内障の様にみられました。いずれにせよ、症例1と2は同一農場内での発生ですので何らかの対策は必要となりそうです。
虹彩の色素沈着異常症とは
虹彩のメラニン色素沈着が減少している場合に、症例3のようになります。白子症(アルビノ)、チェディアック・ヒガシ症候群、ティーツ様症候群などは同様の症状を呈しますが、眼振や失明といった眼の異常を合併している場合がほとんどだそうです。
遺伝的な要因として、BTA8と呼ばれる染色体領域において、関連するSNPにA対立遺伝子が存在すると、表現型として症例3の様に発現するのだそうです。視力等に異常が認められない事が他の疾病との鑑別にもなるようです。
まとめ
目の疾患は決して多く遭遇することはないですが、視力の喪失となると、飼養管理の上で大きな問題となります。また、原因の中には、BVDVやビタミン欠乏といった、農場に甚大な被害をもたらす場合もあります。1個体の疾病と捉えるだけでなく、農場全体の問題ともなりえますので注意深く観察し、原因を特定し対策していきたいものです。
参考資料
- Congenital cataracts and microphakia with retinal dysplasia and optic nerve hypoplasia in a calf. Speaker CL et al (Case Rep Vet Med 2021)
- Congenital nuclear cataracts in a Holstein dairy herd. Stephanie Osinchuk et al (Can Vet J 2017)
- A genome-wide association study reveals a locus for bilateral iridal hypopigmentation in Holstein Friesian cattle. Anne K Hollman et al (BMC Genet 2017)
- Disease of dairy cattle (second edition)
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