酪農家の収入の源泉である乳代。獣医の知識に偏ってしまい、わたし自身、恥ずかしながらあまり詳しくわかりませんでした…
酪農協で働いた頃ようやく、1kg当たりの乳価が、地域によってこれほど違うんだと初めて知ったほどです。
今回の内容は、大まかな乳代を計算するまでの流れと、その背景を整理したいと思います。
乳代とは、サラリーマンでいうところの「手取り」
乳代とは、酪農家(生産者)に最終的に支払われる手取りのことです。サラリーマンであれば、総支給額から社会保険料などが引かれた額ですね。
酪農家の場合は大まかに式で表すと
手取り乳代 = (プール乳価+加工原料乳生産者補給金ー販売経費)×取引乳量
となります。また、カッコの中を「総合乳価」と言います。
下のグラフは「総合乳価」の推移を示しています。飼料価格の高騰などを受け、乳価は年々上昇していますが、近年では横ばいとなっています。
![](https://dairy-diary.com/wp-content/uploads/2022/01/乳価の推移(全国)-1024x492.png)
計算式の中で、聞き慣れない用語がたくさん出てきましたので、少し分解して説明します。
プール乳価とは
プール乳価とは、乳業メーカーが設定した1kg当たりに支払われる価格です。
このプール乳価ですが、北海道では、都府県と比較して低くなっています。
「なぜ地域によって違うのか。」「同じ牛乳なのに不公平じゃないか!」と思いませんか。
乳価が異なる要因と、不公平にならないようなしくみを説明したいと思います。
乳価を決定している要因は主に3つあります。
- 用途別
- 牛乳がどのような目的で製品化されるのか
- 季節変動
- 需要と供給の関係
- 乳成分における乳価の加算
- 成分ボーナス
生乳の用途によって乳価が異なる
生乳の用途は以下の4つに主に分類され、それぞれの乳価が設定されています。
- 飲用
- 加工原料乳
- 生クリーム
- チーズ
![](https://dairy-diary.com/wp-content/uploads/2022/01/用途別乳価-1-1024x789.png)
このように、飲用向けに多く牛乳が取引されれば乳価は高くなります。しかし、チーズなど飲用以外の取引割合が大きくなるにつれ、乳価が低くなってしまいます。
北海道では、全国の出荷乳量の50%強を供給しています。しかし、この出荷乳量の用途別の内訳としては、一番乳価の高い飲用向けが25%しかありません。そして残りの75%が加工原料等として取引されているのです。
これでは北海道の乳価が他府県と比較して低くなってしまうのも当然ですよね…
「加工原料乳生産者補給金」(補給金)で不公平を軽減
先程のように、用途別に取引される割合に応じて乳価が決まるのであれば、「北海道だけ乳価が低い仕組みでは不公平じゃないか」と思いますよね。
そうならないために国の補助金制度があります。
それが「加工原料乳生産者補給金制度」です。これは、用途別に応じた乳価の差を軽減するために、1kg当たり8円ほど国から補助金が出る制度です。
この制度によって、酪農家の経営が安定し、また、北海道(生乳の流通に不向き)に、乳製品などの生産工場を集約し、全国に効率よく出荷することを可能にしています。
実際スーパーに並んでいる、バターやチーズなどは、ほとんどが北海道産ですよね。都府県の乳製品は希少です。
季節によっても乳価が異なる
![](https://dairy-diary.com/wp-content/uploads/2022/01/支払乳価の推移(福岡)-1024x602.png)
このグラフは福岡県の乳価の推移を示しています。
牛は暑さに弱く、夏場は乳量が低下します。一方で、夏場は飲用の需要が増えるため、需要と供給のバランスから、夏場の乳価は冬場の乳価と比べて高くなります。
乳成分による乳価の変動
乳成分の項目の増減によっても、乳価が変動します。乳成分に含まれる乳脂肪(FAT)と無脂乳固形分(SNF)が対象となり、基準値からの増減に応じて、乳価に加算または減算されます。(例えば飲用向けにおいて、FAT 3.5% SNF 8.3%)
遺伝的な改良において、乳量だけでなく乳成分も重要視されているのはこのためですね。
乳価を決定する主な要因をまとめますと
- 用途別乳価 + 補給金
- 季節変動
- 乳脂肪(FAT)、無脂乳固形分(SNF)による加算・減算 となります
販売経費とは
先程のような乳価の計算が、個々の酪農家で行われているのでしょうか?
答えはノーです。
各酪農家の代表?として、乳業メーカーと価格交渉を行ってもらう「指定生乳生産者団体(指定団体)」という組織があります。
![](https://dairy-diary.com/wp-content/uploads/2022/01/指定団体-1-1024x601.png)
上の図のように、「指定団体」は皆さんもご存知の通り、ホクレンや各地区の生乳販連など全国で10の団体があります。各酪農家から生乳を一元集荷・多元販売することにより、安定的な生乳取引を可能にしています。また、酪農家を代表して毎年、乳業メーカーと取引価格の交渉を行っています。
また、①効率的な生乳の輸送 ②安定した販売ルートの確保・生乳の受け入れ ③需要と供給を調整(生乳やバター他)などの役割を担っています。
これらのサービスを受ける代わりに支払う経費が「販売経費」となります。「MMJ」など指定団体以外で直接取引する酪農家もいますが、ほとんどは指定団体に委託しています。
まとめ
以上のように、酪農家が得られる乳代の計算は
(乳代)= (乳価 + 補給金 ー 販売経費)× 取引乳量 となります。
またこの式は y = ax (aは定数:xは取引乳量)で置き換えることができます。
定数aとはどんなに頑張っても変えることが困難な数字(国や指定団体の交渉力に任せる…)
ここに力を注ぐのではなく、「x(取引乳量)を大きくすることに力を注ぐべきだ」とどこかの誰かが言っていた気がします…
最長投稿となりました、最後まで読んでいただきましてありがとうございます。
この投稿が誰かの役に立てれば幸いです。
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