伝染性リンパ腫の大発生
「分娩時期からだいぶ経った妊娠牛が急に具合が悪いんだけど。」と往診依頼。
外見はやや痩せていて、タール便(黒色)をしていた。
直腸検査をすると、腹腔内にハンドボール位の腫瘤に多数触れた。
「伝染性リンパ腫」による症状と診断し、血液検査を行った。
白血球数は10万以上で、診療所の機械では測定不能となってしまった。
血液塗抹を見てみると…

見事なほどの異形リンパ球。
実は、この農場では同月で3頭も腹腔内に巨大な腫瘤を触知できた牛がいた。
2頭は廃用。1頭も廃用予定。仮に直接の原因ではなかったとしても、とても健康でいられるとは言い難いほどの腫瘤であった。
「しょうがなかった」でまた済ませるのか…
普段は、診断として抗体検査を実施しているのですが、
今回廃用となった2頭については、初めてプロウイルス量を測定してみることに。
この偶然の検査から、プロウイルスに関する素晴らしい文献と出会うことができました。
そして、牛伝染性リンパ腫の清浄化に向けた「火」が付いたのです。
プロウイルス量を測定する意義
プロウイルスとは、BLV感染牛の体内ウイルスのことを指します。
当診療所では、BLV牛の全血(EDTA)を県内の検査施設へ送付し、
3〜5日ほどで測定結果が返ってきます。
非感染牛へのBLVの伝播のリスクは、プロウイルス量と比例するとされています。
宮崎大学 目堅先生の報告によると、
他の牛に水平・垂直伝播するリスクを プロウイルス量 500 copies/50ng を基準に
「低リスク牛」「高リスク牛」と分けることができると報告しています。
(The Journal of Farm Animal in Infectious Disease Vol.7 No4 2018)
この方法により、全ての感染牛の淘汰や隔離といった今までの方法(抗体検査)と比べて、
経済的な負担の減少のみならず、柔軟かつ効率的な管理を選択することが可能となるとのこと。
今まであきらめていた、感染率の高い農場でも十分対策が可能であるということです!!
抗体検査とプロウイルス量の測定による対策の違い
では実際に、抗体検査(従来の対策)とプロウイルス量測定(新しい対策)で
どのように対策が異なるのか比較してみました。

垂直感染における対策

プロウイルス量測定における対策の違いとして、
まず「子宮感染・胎盤感染」など垂直伝播への対策があリます。
ウイルス量が多い母体から産まれた子牛は、50%近くが、出生時にすでにBLVに感染していた。
と報告されています。
逆にウイルス量が少ない母体においては、出生時のBLVの感染は10%弱であった。
と報告されています。
ウイルス量の多い母体から出生させないということは現実的には難しいでしょう。
しかし、将来「後継牛」になるであろう牛は、
ウイルス量の少ない母牛から選択的に出生させることは可能となりますね。(高ゲノム受精卵等)
水平感染における対策
次に、水平感染防止のための感染牛の隔離の方法が少し柔軟になります。
プロウイルス量によって4つのグループに分類することで、
「より隔離が必要とされる個体を絞ることが可能」となります。
隔離飼育の難しいところは、農場内に隔離するスペースが十分に無いということです。
しかし、プロウイルス量の測定結果から、隔離牛をより優先的に絞ることで、
「限られたスペースにおいても、効率的に飼育することが可能」となります。
また、発症のリスクの高い、「高ウイルス保有牛を優先的に淘汰することができる」ことも、
経済的な損失を抑えることになります。
「モチベーション」の維持・向上
プロウイルス量を測定する最も重要なメリットは、
「モチベーション」を向上させることができることです。
従来の「陽性」「陰性」の結果では、保有牛の割合でしか評価できません。
そのため、なかなか陽性率は下がらず、改善傾向を実感できずに挫折してしいます。
しかし、ウイルス量の測定によって、
「低リスク牛」〜「高リスク牛」の分布を把握することができます。
伝播リスクの低減や、発症牛の減少を実感することができるようになるのです。
どんな対策でも、「モチベーション」を維持・向上させることは最も重要なことですね。
どれくらいリスクを減らせるのか?
プロウイルス量測定による対策により、
従来と比較してどれくらいリスクを低減することができるのでしょうか。
上記の対策の比較から、まず垂直感染では少なくとも5分の1まで下げることができるようです。
次に、水平感染については、
「低リスク牛」「高リスク牛」(プロウイルス量 500 copies/50ngを基準)を分けることが可能となれば、
新規感染率を2%未満に抑えることもできるようです。
もちろん、清浄化までの道のりは長いですが、
PL牛(持続性リンパ球増多症)や、発症牛による経済的損失を軽減することができます。
検査費用を考える

対策を開始するにあたって、どうしても費用の壁が立ちはだかります。
当診療所が測定依頼している検査施設では、1検体当たり3,300円(税込)で実施しています。
経産牛100頭、未経産60頭、後継牛の出生・年間30頭 ほどの牛群であれば、
初期費用 160 × 3,300円 = 528,000円
年間費用 30 × 3,300円 = 99,000円
牛1頭あたりの費用、損失を考えれば…(優秀な牛ほど発症なんてことも多々)
ちなみに当診療所管内では45農場・約3,500頭のホルスタイン種が飼育されていますが、
牛伝染性リンパ腫による廃用頭数は
令和元年度 2頭 令和2年度 13頭 そして令和3年度途中 17頭 と増加し続けています。
地域をあげた対策が必要ですね。心を燃やします…


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